2020/04/04  
VECLOS HPT-700_02(バーンインノイズ未再生時のレビュー)

 バーンインノイズの制作に使っているパソコンの調子が悪くなったので、バーンインノイズの開発は小休止せざるえなくなった。この記事を見ている人の中には「いつまで作ってるんだよwww」とか「本当に公開する気あるのかな?」とか思っている人もいるかもしれない。現状でも音質的には一般的には十分なレベルだと思う。HD650やER4SRで満足できるなら間違いなく満足できる仕上がりではある。のだが、個人的には「音色の面でまだ十分でない。まだ上げる余地がある」と感じてるのと、私が納得すると言うのは、「音質的に他より優れている。じゃあ良い音じゃん」と言うものではなく、「この方法ではこれ以上音質を上げられない」と確信が得られるまでと言うことらしい。現状では試行錯誤していると「ここをこうしたら音質上げられるかな?」と言うのが出てきて、試すと音質が上がることが多々あるので。
ともあれバーンインノイズの制作は一時停止状態なので、HPT-700のレビューでも上げておこうと思う。

  HPT-700の音

 バーンインノイズを使用してない状態でのレビュー
 (普通の音楽を+6dBほど大き目な音量で661時間鳴らしています)

 結論から言うとこれはとんでもないヘッドホンだった。ER4SRの3倍以上のパフォーマンスがある。解像度はHD650(標準ケーブル)の240段前後上、奥行きは34mってところ。正直信じられないが解像度は同じVECLOSのバランスドアーマチャーのEPT-700をやや上回るレベルだ。当然素のER4SRやnightowl carbonを凌いでいる。またこのヘッドホンの特性としてSNがすごく良い。この点においてはバーンインノイズを使ったnightowl carbonよりも優れている。「さすが振動損失に優れたペーパードライバー」と言うべきか、それとも真空ハウジングが本当に効いているのか本当のところは分からないが、音を聴く限りオーバーヘッド型のヘッドホンでこれは破格の性能だと思う。

 音色もかなり素直で、 バーンインノイズを使っていない状態が前提なら位置づけ的には、音色の階調性はnightowl carbonよりも良く、自然さではHPT-700の方が癖が少なく常識的な音が出る。ドンピシャではないが原音のイメージからそこまで外した音は出さないと言うことだ。それでいて解像度や奥行きもnightowl carbonを上回っているのだから、凄まじい完成度といって良い。でもダイナミクスはnightowl carbonに僅かに劣っているかもしれない。ここはER4SRと互角くらいだろうか。SNはnightowl carbonより良い。注意点として、付帯音が少ないからなのか、意図的にそういうチューニングにしたのか低音は控えめに感じる。ER4SRや同じVECLOSシリーズのEPT-700よりちょい弱め。低音の量感が欲しい人は注意が必要だ。

 このヘッドホンの原音忠実性はかなりのもの。たしか以前 ER4SRを評価した時は「セールストークとして原音忠実を謳っても許される音質」と評価したと記憶している。ER4SRより遥かに良い音を実現できることは分かっていたのだが、それでもER4SRの音を聴いて「原音忠実を謳うだけのことはあるんだねぇ。さすがだねぇ!」と納得させるものを感じたからだ。同時に「原音忠実を謳うなら最低でもこれくらいの音は出してほしい」という気持ちもあった。
ではこのヘッドホンはどうかと言うと、「素人が『フラットで原音忠実でなんでもこなせるヘッドホンが欲しい』と無茶なこと言ってきてもこれ薦めたらいいじゃん!」と思ったヘッドホンだ。要は「このヘッドホンは完全な原音忠実か?」と言われたら、答えはNOなのだが、「原音忠実なものが欲しい」と言われても、安心して人に勧められるレベルの原音忠実性は備えていると感じた。求道者を納得させられるかは分からないが、一般人がこれを買って音に不満を漏らすことはほぼないんじゃないかと思う。。。低音の量感を除けば。だがこの音質の前ではそんなことは些細な問題だ。ER4SRの頭1つ上、いや2つ上の次元の音を鳴らすヘッドホンだ。


 ただ、(開発中のやつだけど)バーンインノイズを鳴らしたSRH1540やnightowl carbonと比べちゃうと、音が痩せてしまっているし、ボーカルが渇いた感じで潤いに乏しい。感情表現がいま一歩。音がやや濁る。生命感に乏しく音が生き生きしていない、音が氏んでいると言うのはあるんだけど、解像度はそこまで大きな差はない。SRH1540でHPT-700の20段くらい上?nightowl carbonで70段くらい上だろうか。SRH1540とnightowl carbonの差が小さいのはバーンインノイズの音量がnightowl carbonの方が小さいから。(SRH1540:6.23Vrms@1kHz,fullscale, 49Ωload),(nightowl carbon:0.83Vrms@1kHz,fullscale, 25Ωload)で共にDR DAC3とPMA-60で出せる最大音量で鳴らしている。
解像度や音色の面で負けてしまうのは「バーンインノイズ流して音質をかなり上げているから当然」と思うのだが、SNに関してはバーンインノイズを鳴らしたSRH1540やnightowl carbonでも勝てないんだよな。SNに関してはすごいと思う。 音色に関しては個人的には結構不満があって、もっと有機的で生命感あふれる感じだと良いのだが、ここはバーンインノイズでかなり改善するだろうし、バーンインノイズを鳴らしていない素の状態でなら音色でもSRH1540やnightowl carbonよりも優れているであろうから、相対的にはマイナス評価にはしていない。少なくとも素の状態のEPT-700と比べても音色は優れている。基本的にはとても素直な音だと思う。


  その他/装着感など。

・付属品にハードケースなどの嵩張る物はなく、巾着袋がついている。ハードケースなどのどうせ使いもしないものにコストをかけても無駄なので潔くて良いと思う。巾着袋は大きさも大きめで入れる時も入れやすくて良い。nightowl carbonに付属していた巾着袋はギリギリのサイズで出し入れの時に苦労するので使えないと判断して使っていないのだが、これは使えるレベル。だけど「エツミのカメラ用の巾着袋には敵わないなw あれはサイズが完璧だしクッションが違う。」と思うのでエツミを使っている。


・かけ心地は基本的には良いのだが、フィット感がいまいち。と言うのはユニットが耳穴より若干下にくるくらいに調整すると音質的には良好な結果が得られるのだが、その掛け方だと側圧が若干緩く、ずれやすい。意外と重たいからしばらくするとずれてくる。かけ心地と言うかフィット感は nightowl carbon > HD650 > SRH1540 > HPT-700 の順かな。個人的には。重さはnightowl carbonの方が重いはずだが、体感ではHPT-700の方が重く感じる。
 ヘッドバンドを一メモリ縮めてユニットが耳穴より若干上にくるくらいに調整すると、側圧が強めになって、フィット感も良くなるのだが、音質的に納得いかず、結局ユニットが耳穴より若干下にくる長さに調整して聴くことになる。
このヘッドホンはポータブルなんだかホームなんだかよく分からない中途半端な大きさだが、もっと大きめなホーム専用の設計だとかけ心地はもっと良かったかもしれない。「ポータブル向けなのね」という認識だったのでEPT-700の音が良くなかったら興味すら持たなかった。


・音漏れについては、買う前は真空ハウジングなので遮音性は抜群だろうと予想していたが、意外と音漏れする。真空ハウジングと言っても金属を伝って振動は伝搬するし、ハウジング上にはポートがあるし、パッド素材のせいなのかSRH1540のほうが音漏れは少なく感じた。


・エージングは結構長い。
 普通の音楽を+6dBほど大き目な音量で鳴らして、現時点で661時間ほどエージングしているが、160時間あたりから音色の抑圧感はかなり改善してきた。450時間ほど鳴らしたあたりで音痩せは若干残ったままだが、音色はかなり改善してきた。現状、音痩せは無くなっていないのだが、この感じだともう少し良くなるかもしれない。ただ、少し気になる点としてハウジングに反響したかのようなウワーンと響くような感じがする。nightowl carbonも似たような響きを持っていたが、nightowl carbonの場合はこれはハウジング由来でなく振動板由来だったらしく、バーンインノイズで消えてしまった。HPT-700もこのままエージングを続けるか、バーンインノイズで強制的に鳴らしてやれば変な響きは無くなるんじゃないかと思う。


  総じて言うと

 高解像で定位が良く自然な音が出る。特に定位が良く空間表現に優れると言うのはメーカーの謳い文句通りだ。傾向としてはニュートラルだがややクリア傾向。特別個性的な音ではないが、個人的には機械固有のキャラクターって邪魔以外の何ものでもないという認識なのでむしろそれが良い。それに表現力がかなり優れているので音楽性も高い。これは良い意味での普通であり、言うなればまともな音の出るヘッドホンだ。手持ちのヘッドホンの中ではピアノが一番まともに聴こえるヘッドホンだね。素の状態での比較なら定番品のHD650やER4SRよりも自然だし、nightowl carbonやSRH1540よりも自然だ。音楽信号以外の余計なノイズを減らしていくとこういう音が出ると言うオーディオ理論を具現化したような音だ。だが、ちょっと音が痩せていて、やや神経質な感じがするのだが、音が痩せてたり神経質なのはどこかで歪が入って音色をスポイルしているんだろうな。歪0のヘッドホンなんか存在しないので当たり前だが、このあたりを改善すると、もっと有機的で生命感溢れる音になると思う。とまぁ、質感表現に対しては若干不満があるものの、このあたりはバーンインノイズで解消するんじゃないかと予想している。そんなに大きな癖でもないし、nightowl carbonでも音色の質感は明らかに良くなったからだ。もっともHPT-700はT3-01と素の状態で比べたいと思っているので、しばらくバーンインノイズを使うつもりはない。バーンインノイズはヘッドホン本来の性能を引き出していると言えるのだが、メーカーが想定している音質では絶対にないから。ともあれ素の状態で評価してもポテンシャルはとても高いヘッドホンなので、やり方次第でかなり良い音が出せるヘッドホンだと思う。


 では、HPT-700は買いかどうか? 当然買いだ!言うまでもない。だが、残念ながらサーモスがオーディオ事業を止めてしまったため手に入らなくなってしまった。当然、後継機種もない。45000円でこの音なら、nightowl carbonと比べてもお買い得だと思うのだが、以前「nightowl carbonはこんなにも音が良いのになぜかゴミ屑扱いされている!」という趣旨の内容を書いたが、HPT-700の音を聴くと「nightowl carbonは35000円が妥当かもしれないな・・・」と感じてしまう。私の基準では「HD650より音が良ければ5万の音はする」という評価なのでnightowl carbonは価格以上のパフォーマンスがあるのだが。ではそんなに高音質のHPT-700は売れたのか?・・・売れていたら撤退はしないでしょう。残念ながら現在のオーディオ市場では高音質だから売れるという方程式は成り立たないようだ。オーディオ事業の終了で25000円で投げ売りされてからは売れているようなのだが、買って初めてその価値を理解した人は多いだろう。






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2020/04/04 執筆    
2020/04/04 公開    
2020/05/26 修正